三弓について
2010年鎌倉市にて造園業を開業いたしました。古いお寺やお屋敷など伝統的、古典的なお庭に入る機会が多かったのですが、時代の流れからか土地を分割、お庭を整理することも多くなりました。古い庭には沓脱石や飛び石などの足元に使う石もあれば、灯籠や手水鉢といった主に眺めるための石など実に多くの石が使われています。数十年前、あるいは数百年前に誰かが選び、手間をかけて運び、熟慮の末に据えた石がその意図も知られないまま重機によって掘り起こされてそのままどこかに捨てられる。どうしても見過ごせずにその場で引き取り、幸い出自の確かな石は程なく引き取り先が見つかり新しい庭に据えられました。
何も手を打たなければ捨てられる石を譲り受けたことが契機となった古物商ですが「価値の分かる方へ譲りたい」というご依頼は石造品から始まり、納屋の道具、調度品、床のもの、蔵に眠る書画や器まで次第に扱うものの種類と数は増えていきました。しかし預かる品の全てがどなたかに求められるとは限りません。掛軸を飾る家も多くはありません、蒔絵の施された重箱はもはやおせち料理を盛られることも稀になりました。どうしても滞ってしまう、今の日本では見向きもされなくなってしまった品々の活路を探り、販路を海外に拡大したのが2020年。コロナ禍によって外の世界と閉ざされた中、人々は遠く海の向こうから送られてくる異国の品に憧憬を募らせ、仄暗い時を耐え忍びました。開業から未だ10年程ではありましたがモノ、特に古い品の持つ”力”をこれ程強く感じたことはありません。世紀という単位で時代を遡ればコロナ禍を軽く凌駕する脅威は常にありました。震災、洪水といった天災や戦争は人々の財産を一瞬で奪います。私たちが扱う品はそうした数多くの災難や脅威をくぐり抜けてきました。そしてその背後にはその品々を丁重に守った人の想いがあり、モノはその想いを纏います。それを雰囲気と呼ぶのか、オーラと呼ぶのか分かりませんがスマホの小さな画面の中にある実体のないもの、大量生産、大量消費される商品からには感じられない捉え難い魅力を古い品は放ち、その魅力が国や文化さえ超えて伝わることを改めて自覚できました。おかげさまで年毎に売上を伸ばし、事業拡大のため2021年小田原に拠点を移すこととなりました。
小田原で私たちが店を作ると決めた建物は古いみかん小屋でした。床は土、ボロボロの建具、壁もないトイレ、まずは全てを自分たちで作り変える必要がありました。土間を打ち、石を並べ、柱を立てて壁を塗る。なるべく新しい建材を使わないで古材を使う。これまで手掛けた店舗やマンションのリノベーションより手間がかかりますが古い品と同じく手間をかけた分だけ”力”を持った空間が出来上がったと思います。この新しい空間で2024年から新たな業態に挑戦します。
世界はコロナを乗り越えました。私たちが店を構える小田原にもたくさんの外国から来られた方を見かけます。何度も購入いただいたお客様から店を訪ねたいとリクエストされることも多くなりました。SNSによって小さな町の小さな出来事が瞬く間にシェアされて人が殺到するような時代に何が受けられるのか常にアンテナを広げ、既存事業の拡大と新しい事業の展開を図る所存です。
三弓